象の胎児

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こちらは私が去年の夏に制作した象の胎児です。
私は象が大好きですが、この象は本物の胎児の画像は一切みずに、頭の中に浮かんでいる象の胎児を「リアル」に作ろうとしたやつ。
しかし面白いのは、この作品を見た人が「本物みたい!」と言ってくれることです。
私は本物の象の胎児を見たことはありませんが、おそらくこんな青みがかった肌はしていないと思います。
 
制作のはじめは意志を持って行ったのですが、制作も後半になってくると、突然作品が私の体から離れて行ってしまう感じを味わいました。
私の創造物であるはずなのに、私はそれを忘れ始めてしまったのです。私は赤ちゃん用のCDをかけたりして泣きながら作品を制作しました。
そして何か悪いものが聞こえて眠れない夜には、この子の頭を何度も撫でました。そういう時に、私はより一層この子を愛おしく思いました。
私の作品を見せると、大体の人は「意味がわからない」「気持ちが悪い」と言います。そういった反応はこれまで私自身が受けてきた反応と同じです。なので私はこの象の赤ちゃんがこれから世間に晒された時に受ける恐怖を思うとやりきれない気持ちになりました。
実際にこの作品を見た人の多くは「気持ち悪い」「怖い」という反応をしました。私にはわかりませんがおそらくそれが正常な反応なのかも知れません。
しかし、もし私が自分の作品で誰かを救おうとするのであれば、そういった批判はなくてはならないものなのです。それは彼らの声を取り入れるという意味ではありません。
私はこの作品を残酷な気持ちではなく、優しい気持ちで作りました。
けれども多くの人はぱっと見のグロテスクな印象だけで、この子にも、作った私にも、冷たい視線を投げかけます。しかし彼らの冷たい目線がなくてはこの子は作品にはなれないのです。
この子には創作の中ではなく、作品としての欠点があります。
それは片側には彫刻が施されていないという点です。もしそんなことをしたら、この子は永遠に私の元から旅立ってしまう気がして、私は片側を作らないままにしておいたのです。
この子のまっさらな片側は、私と繋がっているのです。作品は私自身の一部です。

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